千葉商船ビル新築工事

設計・監理

岡建工事株式会社

一級建築士事務所(松本睦)

施工担当

石田照雄・今城将景

森谷治樹

構造

壁式鉄筋コンクリート構造

3階建

所在千葉県

設計担当者コメント

     職場から75km、千葉県香取市佐原に昭和初期の洋館をモデルに建てられた千葉商船ビルは3階建て鉄筋コンクリート壁式構造の事務所、共同住宅です。
 水郷の商都・佐原は江戸時代中期から昭和初期に利根川水系の舟運と穀倉地帯の物資の集積基地として繁栄した商業都市の姿を今に残し、国から関東地方初の重要伝統的建築物群保存地区に選定されています。
 立地は香取街道と小野川の交差点である忠敬橋のたもと、この地区内のほぼ中央に位置します。近隣には伊能忠敬の旧宅や古い町家建築、土蔵造り、洋風建築など江戸後期から昭和初期までの建物が混在し、異なる時代の多様な建築様式が調和して佐原の歴史的町並み景観を構成しています。
 この地で長年に渡り地域に貢献されておられた千葉商船様から、この度本社機能を持つ事務所兼共同住宅の計画のお話をいただき、IDデザイン戸山先生のご指導のもと設計致しました。計画当初は東京新橋にある建築金物の老舗、堀商店をモデルに昭和初期の洋館を建てたいとのご要望でした。
 香取市佐原地区歴史的景観条例は、もともと木造しか想定していなかったので協議はなかなか進みませんでした。3年に渡り香取市佐原の歴史的景観審議会と協議を重ね、香取市の担当者の尽力や、有識者の大学教授などの協力的な助言を頂きながらようやく許可がおりました時はホッといたしました。
 外観を構成するレンガ、石、建具、内装材料全てが特注でしたので建材ごとに何度もサンプルを製作して検討を重ねました。時にサンプルを持ち出してモデルになった建築物の外壁に実際にあてがい比較したり、テクスチャーを粘土で写し取り石膏で固めて工場に送ったり、100年前の鋳物のカタログにあるデザインをアルミの鋳物で再現したりと非常に充実した時間を過ごさせていただきました。また、モデルは昭和初期でありながら居住空間は現代的な設備を備えていますので高さ制限があり十分な天井フトコロが取れない中、現場監督をはじめ各設備業者さんが見事に納めてくださいました。
 計画から約五年の月日を要し、平成30年10月に完成いたしました。完成直後に行われた300年の伝統を誇る佐原の大祭の折、山車の背景に佐原の町並みに違和感なく建物が溶け込んでいる様を見て、日本初の重要伝続的建築物群保存地区に建つ洋館の一例になったのではないかと思いました。

設計担当 松本睦   

施工担当者コメント 

  干葉県の佐原に完成した千葉商船ビルは鉄筋コンクリート壁式構造の塔屋付き3階建、事務所兼共同住宅です。昭和初期の洋館をモデルにしており、壁は敷地に合わせて円形になっております。
 外壁のコンクリートは厚さが厚いところで30センチ弱、外装内装の仕上げまで含めると40センチ近くになり、洋館の重厚な雰囲気が表現されています。塔屋の屋根は四角錐で、更に屋根の各面は湾曲しておりましたので、コンクリートの型枠を製作する前に様々な検討をし、精度の高い躯体が実現できました。
 外壁の仕上げ材はレンガタイル、御影石及びステンレス製の建具で構成されています。  また、塔屋の先端の装飾やロートアイアンの面格子に至るまで全てがこだわりの特注品です。レンガタイルは色合い、凹凸の深さや密度についてサンプルを作成して検討を重ねました。凹凸は 2種類のローラーにくぐらせて深さや密度を調整したため、タイルの厚みと躯体との調整が大変でした。
 御影石は3種類の表面仕上げが施され、窓と窓との間のレリーフの装飾などあらかじめ木で作った原寸モデルを工場へ送って削り出して製作されました。昭和初めの洋館の窓は鉄製でしたが、防錆のためこの建物ではステンレスの引き抜き材を使用してアルミ製建具にはないレトロな印象を出しました。塗装は時代感を出すためにフッ素樹脂を自然なムラが出るように焼き付けてブロンズの古びた風合いを表現しています。
 内装は各階でオークの無垢材を腰パネルや木製建具にふんだんに使用し、廻縁、腰見切り、巾木などの断面形状は全てオリジナルでデザインされています。また、各階の床は1階は大理石と人研ぎ、2階はオークのヘリンボーン貼りフローリング、3階はオークの幅広フローリングとなっています。特に壁面が曲線なので各要素が同心円上にきれいに取り付けられるかは現場で大変苦労いたしました。階段室は大理石と人研ぎ、漆喰で構成されており、大理石の段板とロートアイアンの手すり、そして人研ぎの取り合いは大変気を使いました。
 工期は1年でしたが、既製品とは違いどの部分も製作日数がかかる上に、お施主様、監修者、監理者との綿密な打ち合わせが必要でしたので、日程調整には気を使いました。皆様のご協力をいただきお施主様のご希望に沿う建物が出来上がったのではないかと感じております。

施工担当 森谷治樹